長野濬平翁生誕200周年記念シンポジウム講演録
令和5年10月15日(日曜日)、本市出身で熊本県の近代養蚕業の祖であり養蚕業振興に大きな功績を果たした長野濬平(ながのしゅんぺい)の生誕200年を記念して、濬平の偉業と山鹿市のシルク産業の理解を深めるシンポジウムを開催しました。
このシンポジウムは、彼の業績や山鹿市周辺の養蚕業の歴史を振り返るとともに、食品・医療など新たな分野での可能性が開けている養蚕業の最新情報のほか県内で取り組まれている学校教育での蚕業体験などを伝えることで、県内有数の養蚕地域であった山鹿市から新たな養蚕業の未来を見据えることを目的に開催したものです。濬平の偉業を伝えてきた「長野濬平翁顕彰会」や行政関係者らで組織した実行委員会が主催です。
昭和初期をピークとしてその後衰退してきたシルク業界ですが、現在は服飾産業のみならず、医療や食品など新たな分野での活用が見込まれています。今回のシンポジウムでは、各分野で活躍されている方々からシルク業界の最新情報のほか、山鹿市で展開されている「SILK on VALLEY」の現状と展望、小学校で取り入れられている蚕飼育が紹介されています。山鹿の地で蚕業の歴史と現在と未来を知る内容にもなっておりますので、ぜひ講演録をご覧ください。
シンポジウム
日時:令和5年(2023)10月15日 午後1時30分から午後4時まで
場所:山鹿市民交流センター 文化ホール
主催:長野濬平翁生誕200周年記念事業実行委員会
共催:長野濬平翁顕彰会
協賛:一般社団法人熊本県蚕糸協力会
後援:山鹿市、山鹿市教育委員会
シンポジウムの日程と講演録
1 開会 ・主催者挨拶(長野濬平翁生誕200周年記念事業実行委員長 中嶋憲正)
・来賓あいさつ(山鹿市 早田順一市長、山鹿市議会 服部香代議長)
2 ビデオ放映 ドラマ「長野濬平~近代養蚕業の開祖(15分短縮版)」(テレビ熊本制作)
3 説明 長野濬平翁の偉業について(長野濬平翁生誕200周年記念事業実行委員会事務局)
概要 江戸後期、庄村(現在の山鹿市鹿本町庄)の儒医の長男として生まれた長野濬平が、幾多の困難を乗り越えながら「熊本県の蚕糸業の祖」と呼ばれるまでに至る翁の生涯とその偉業について、スライドを交えながら説明しました。
4 基調講演 動き出した「蚕」業革命
講師 瀬筒 秀樹 氏(農研機構研究領域長、東京大学客員教授)
概要 日本の高度な養蚕技術とバイオ技術を活用した「蚕」業革命が動き始めています。これまでにない高機能シルクが開発されているほか、カイコによる医薬品原料等の生産も進み、衣料だけでなく医療・工業分野等での利用拡大が期待されています。遺伝子組換えカイコを用いて有用物質生産の実用化による「蚕業革命」を目指した研究開発とともに、動き出した「蚕」業革命の実例についてご講演いただきました。
5 パネルディスカッション
(1)事例発表
○「小学校での蚕飼育」坂口静磨 氏(熊本市立託麻南小学校 教諭)
概要 令和元年から生活科の授業に取り入れている蚕の飼育における、児童の学習の様子や授業を通しての成果や課題などが発表されました。
○「SILK on VALLEY 最新情報」島田裕太 氏(株式会社あつまる山鹿シルク 代表取締役社長)
概要 衰退の一途を辿る斜陽産業、と思われがちな養蚕業ですが、グローバルに見ると実は今後発展が見込まれる成長産業。伝統的な養蚕業を新たな産業へと変える「SILK on VALLEY」プロジェクトとシルクの無限の可能性についてご紹介いただきました。
○「医療材料として期待されるシルク」新留琢郎 氏(熊本大学 大学院先端科学研究部 教授)
概要 カイコから得られるタンパク質繊維のシルクフィブロインをスポンジやフィルム、チューブ、マイクロ粒子など様々な形状に加工し、医療材料として応用する研究についてお話いただきました。
(2)ディスカッション
テーマ 山鹿からシルクの郷へ紡ぐ未来
コーディネーター 瀬筒 秀樹 氏
パネリスト 坂口静磨 氏、島田裕太 氏、新留琢郎 氏
事例発表を受けて、シルクの今後を展望しました。
6 ショートフィルム上映「山鹿のお蚕さんの糸で手織りした着物と帯の制作ストーリー」
説明 花井 雅美 様(養蚕農家)、吉田 美保子 様(染織家)
令和5年秋、山鹿のお蚕さんの糸で手織りした着物と帯が完成しました。その経緯や工程、作者の思いなどをつづった約10分のショートムービを放映しました。(動画は下記URLで公開されています)
https://youtu.be/KSERErcRUPc?si=F0i2MTgF5wX4Fly
(画像をクリックすると動画が再生されます)
関連イベント
(1)長野濬平翁パネル展
日時 令和5年10月10日(火曜日)~10月15日(日曜日)
会場 山鹿市民交流センター ホワイエ
内容 長野濬平翁関係の写真パネルや年表を展示しました。
(2)糸紡ぎ、糸撚り体験
日時 令和5年10月15日(日曜日)11時00分~13時30分
会場 山鹿市民交流センター ホワイエ
内容 織姫伝承塾の協力を得て、座繰りを使った糸紡ぎと糸車を使った糸撚り体験コーナを開催しました。かつての作業を懐かしむ方や初めて目の当たりにして興味深く見学するお客様もおられました。
(3)山鹿の着物展
日時 令和5年10月15日(日曜日)11:00~16:30
会場 山鹿市民交流センター ホワイエ
内容 山鹿の繭から糸を紡ぎ、山鹿の方が機織りをしてできあがった着物を一堂に展示しました。広報やまがで展示協力を呼びかけたところ、市内の14人の方からご協力をいただきました。このほか、来民製糸場関係の資料も展示しました。