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清浦奎吾伯総理大臣就任100周年記念事業 国連事務次長 中満泉氏の講演会を開催しました

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清浦奎吾伯総理大臣就任100周年記念事業 国連事務次長 中満泉氏の講演会を開催しました

 国連事務次長 中満泉氏の講演会を開催しました。当日は市内中学校140名、高等学校90名を含む約500名の参加がありました。
 講演で中満次長は世界の現状について「複雑で課題に満ちた時代」として、「世界平和への特効薬はないが、諦めず様々な努力を戦略的に続ける必要がある」「若い人や市民とともに努力を重ねたい」と語りました。
 講演後、早田順一山鹿市長と服部香代山鹿市議会議長から講師の中満氏へ、記念品として当市の伝統的工芸品である山鹿灯籠及び来民うちわの贈呈がありました。
講演会講演会記念品

1 内容と目的

 令和6年度(2024)は、本市に生まれた清浦奎吾伯(1850~1942・嘉永3~昭和17)が熊本県出身として初めて総理大臣に就任してから100年にあたります。清浦伯は先の大戦に際して反対の立場であったといいます。しかし日本は開戦し、多くの犠牲を経て敗戦に至りました。その後、日本は戦争を放棄し平和に貢献していますが、世界の各地では今も戦争や紛争が続いています。

 今回、熊本にルーツをもち世界で平和維持への経験が豊富な国連事務次長の中満泉氏を本市に招き、中満氏のこれまでの取り組みや、国連がこれらの危機にどのように立ち向かうのかについての講演をしていただくことで、市民が未来や世界の平和に向き合うヒントを学ぶとともに、清浦伯の顕彰につなげることを目的とします。

2 期日

令和6年5月13日(月曜日)14時開会 15時30分閉会

3 講師

中満 泉氏(国連事務次長・軍縮担当上級代表)日本人女性として初めての事務次長。

講師経歴 1963年東京生まれ。早稲田大学卒業、米ジョージタウン大学大学院修了。 1989 年から国連で難民・人道開発支援、平和維持活動 (PKO) に従事。一橋大学教授などを経て2017年から国連事務次長兼軍縮担当上級代表。ニューヨーク在住。両親は熊本市出身。

4 演題

 歴史の転換期を生きる:激動の時代を乗り越えるために

5 会場

山鹿市民交流センター 大ホール

6 主催

清浦奎吾伯総理大臣就任100周年記念事業実行委員会

構成団体 清浦奎吾顕彰会(会長 中嶋憲正)、山鹿市、山鹿市教育委員会

 清浦奎吾顕彰会は清浦伯の事績を顕彰することを目的として、昭和61年度に設立された団体です。毎年、清浦伯の命日に墓前祭を執り行うほか、小学生が清浦伯の歩んだ学びの道をたどる立志の道事業や顕彰マラソン大会(いずれも実行委員会形式)などを実施しています。

7 共催

山鹿市、山鹿市教育委員会

8 後援

熊本県、熊本県教育委員会

9 講演の内容

熊本のDNA

 私の両親はともに熊本出身で、自分も100%熊本のDNAだと思っている。私の叔父にあたる中満敬吾は、岳間の村長を18年間務めていたという。清浦奎吾も遠縁で、「大森の奎吾おじさん」という名前を祖母から聞いた記憶がある。

世界秩序が揺らぐ時代

 清浦奎吾は時代の転換期に生き、司法省で法律の制定に尽力するなど日本の屋台骨を作るような仕事に取り組んでいた。現代も同様の転換期にあると思っている。国連憲章で自衛権行使以外の戦争は禁止とされているが、国際秩序が揺らいでいる。第二次世界大戦の敗戦後、アメリカとロシアの二極構造となった。いわゆる冷戦である。日本は敗戦によって「富国強兵」の「強兵」は失ったが「富国」については戦後復興を成しとげた。日本は1968年から2009年までアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国であり、世界での競争力は1992年まで世界第一位を維持していた。

 私が国連で仕事を始めたのは1989年で、東西冷戦が終わった年である。当時の安保理の決定は、ポスト冷戦の中において秩序であった。国連は軍縮、世界経済、ジェンダー平等などに取り組み、絶対的貧困を半減させるなど努力が実を結んだ時代だった。

 日本もリーダーシップのポジションを維持していたが、大戦後の国際秩序が変化する中で、その立ち位置が大きく揺らぎ始めている。GDPはドイツ、そしてインドに抜かれ世界第5位になるだろう。世界一位であった国際競争力は23位と、後退し続けている。

ポスト冷戦は終焉の時

 世界に目を向けると、複雑化した課題に満ちた時代で、大国同士の競争だけでなく、様々な地殻変動が同時に進行していると感じている。国際秩序における多極化として中国やインドだけでなく、世界各地にパワーをもつ国々が台頭してきている。中心がG7からG20へ徐々に移行している。また、東西対立だけでなく南北対立も起きている。さらにグローバルサウスの存在感が増してきている。

 ガザでの人道法違反など欧米諸国のダブルスタンダートに対して、グローバルサウスからの不信感が生まれている。欧米諸国は、ロシアのウクライナ侵攻には一致協力し連帯が可能なのに、なぜガザでのダブルスタンダードに声をあげないのか。

地政学的パラダイムシフトの要因

※パラダイムシフト=地殻変動。その時代に当然と考えられていたものの見方や考え方が劇的に変化すること

1 分断の構図

 経済のグローバル化に伴う負の側面として、国内格差や不平等が問題となっている。不公平を感じている国民による国内政治の分断が進み、ポピュリスト政治家が台頭してきている。

2 経済の地殻変動

 自由貿易体制など国際秩序に基づく経済秩序が揺らぎ始めている。自国第一主義が台頭し、ロシアのウクライナ侵攻により食糧価格やエネルギー価格が高騰して途上国の経済は大打撃を受けている。経済秩序がきしみ始めている。第二次世界大戦の要因の一つは保護主義政策とブロック経済化の進行だったが、現在の経済秩序の揺らぎは世界の安定にとって非常に問題だと危惧している。

3 世界的人口動態の変化

 人口の急激な増加が進み、2022年11月には世界人口が80億人になった。人口増加によって、限りある資源に負荷となっている。先進諸国では少子高齢化が進み労働力が不足しつつあるが、2050年までにサハラ以南のアフリカ諸国の人口は倍増すると予測されている。

 大規模な人の移動、移民には「プッシュ(国民の放出)」と「プル(移民の受け入れ)」の要因が存在している。合法的で秩序のある移民は先進国と途上国ともにウインウインの関係を築けると思っているが、残念ながら多くの先進国で移民問題は国内政治の分断につながっている。

4 気候変動

 気候変動は私たちの生存に関わる問題で、今後10年間の行動によって、今後数千年にわたり地球環境に影響を及ぼすと言われている。身近に気候変動を実感することが増えていく。人類全体に関わる問題だが、産業革命以後依存してきた炭素燃料からの転換は、大きな困難を伴う。

5 経験のないスピードで進歩する科学技術

 今後、科学技術は予測がつかないスピードで劇的に進歩していく。

 技術のすべての分野(人工知能、量子コンピューター、バイオ技術、ナノテクノロジー、人工光合成、核融合など)で、社会生活や教育など日常の場面だけでなく、戦争の闘い方までを根本的に変えるような大きな変革の入り口に立っている。技術の進展で人類が受ける影響は、ポジティブな効果が大きいと思っている。ポジティブな側面として、病気治療が進み、医療のあり方を変えていくだろう。

 ネガティブな部分も考える必要がある。自律型殺戮兵器(LAWS)など、AIを駆使して機械が人間の介入なしに武力を行使する殺戮兵器の開発が進んでいる。自律型殺戮兵器(LAWS)によって戦争で市民の犠牲が減ると主張する人もいるが、少数派である。機械が人間の命を奪うことは法的、倫理的に許されることではない。しかし、そのような時代がすぐそこまできている。AIにコントロール(自制)が可能なのか、大きな疑問である。現段階では予測できないような大変動の波に翻弄される危険性がある。これからは、技術を作る人に倫理的で責任あるイノベーションがなければ、人類全体で負の側面が増大してしまう。

 これらの「地殻変動」はそれぞれが連動して起きており、世界がその波に飲まれているように見える。ウクライナやガザなど各地の紛争は世界情勢の症状でもあり、変動を加速させる要因にもなっている。このような状況の中で、日本国内では人口減少や経済的衰退が起こっている。

私たちはどうすればよいのか?

 大切なことは「クールヘッド」。まず冷静さを取り戻し、現在の事象だけでなく長期的な共通の利益を見極める勇気を、私たち全員が持つことだ。

 軍縮は理想論ではないかと言う人もいる。しかし、最悪のシナリオを防ぐために軍縮の交渉が必要だ。軍縮で思い出されるのがレーガン・ゴルバチョフ会談だ。1962年のキューバ危機も重要な分岐点だった。全面核戦争の最大の危機を回避したのは、ケネディ・フルシチョフ会談で、二人の指導者が危機感を共有することができたため、危機から1年も経たないうちに「部分的核実験禁止条約」を締結できた。ケネディ大統領がアメリカ議会上院を説得した際の「際限のない軍拡競争よりも、軍縮の方がアメリカの安全保障にとってプラスになる」との言葉が印象的だ。

 軍縮と外交努力は、安全保障のツールとして機能してきた。しかし、今は逆方向に向かっている。軍縮体制の弱体化は世界の安全保障に大きな悪影響がある。相互関与による安全保障を復活させなければならないと思っている。日本の例として、新渡戸稲造(国際連盟で初めての日本人事務次長で私の大先輩にあたる)は太平洋戦争前の時代、国際情勢に不信が渦巻く中で勇気ある発言をしていた。例えば「中国への優越感を変えること」「学校での軍事教練をやめること」「政治から軍人を追放すること」「戦争反対を明確に宣言すること」など。しかし、その後日本は破滅への道を辿ることになった。

今が大きな歴史の転換機

 核兵器や新技術が存在する中で、戦争を起こすことなくこの危機を乗り越えるため、多岐多様、様々な努力が求められる。残念ながら、これで世の中は平和になるという特効薬は存在しない。地殻変動のような課題は地球レベルでの共働が必要であり、普遍的な外交の場である国連も含め、戦略的に組み合わせすべての手段を活用して秩序を回復させるという強い意志が必要である。

 先が見えない大きな変化は、誰もが不安なもの。清浦奎吾総理は、新しい国のあり方、国づくりに大きな夢と希望をもっていたと思う。今の転換期でも私たちは変化を恐れず、どのような世界や社会になりたいか、夢や希望、イメージを思い描きそれを起点として、何をするのかを考えていくことが大切。

 明治維新は、若者が主導した社会改革だった。それまでの体制と全く異なる若い人による行動力、創造力が生まれていた。今の時代も若い力が中心的に活躍できるスペースを作ることが大切で、そこへの防波堤となることがシニア世代の役割だと思う。

 今年9月、国連事務総長は未来サミットを開催する。AIや宇宙領域の分野はガバナンス(統制や管理)が存在しない分野となっている。人類の新たな活動領域である宇宙での資源開発、衛星経路などにはガバナンスがない。どのような国際交渉が必要か、考えておかなければならない。未来サミットでは、これらの課題に対してどのようなプロセスを構築すればよいのか、議論していく。

歴史の転換期を乗り切るため、私が重要と考える3つのこと

1 どんなに困難でも対話と外交により信頼を醸成する

2 国内や国境を越えたレベルでの不正義、不平等を解消し、大きな連帯感を作る

3 国際秩序の根幹である国際法を普遍的に守っていく

 何度も申し上げているが、特効薬は存在しない。英知を結集して諦めず、夢と希望、そしてどんな世の中にしたいかを最初に思い描き、そこから努力していくことが必要だと強く感じている。

 最後に、国連の第2代事務総長ダグ・ハマーショルドの言葉を紹介します。「未来は絶対大丈夫、将来を考え行動するたくさんの人がいる限り」

 私たち市民一人ひとりが身の回りで行動することで大きな影響力を及ぼせると思っている。皆さんと協力しながら努力を重ねていきたい。

質疑(会場の中学生から)

・国連で難題に取り組むエネルギーはどこにありますか。

 身近なところでいうと、家族の支えやつながりは大きい。また、難民保護の現場などで人間の残酷な面をたくさん見てきたが、同時に命を懸けて隣人を守るような勇気や、思いやりのある素晴らしい存在であることにも触れることができた。そのような素晴らしい人間がいることがモチベーションになっている。

・進路について考えています。

 自分の興味があることを追及してほしい。まず自分が心の中で何をしたいのか、若い間にしっかりと見極めて。好きなことは努力しても苦しいと感じないものだから。


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